太田隆次の人事講座

人事考課は科学か芸術か ― 人事考課は科学であり芸術でもある ― [人事の教養]

投稿日時:2014/10/29(水) 09:00rss


1)科学と芸術は相いれるか
 科学者の寺田寅彦は「科学者と芸術家」という随筆で「科学者と芸術家の世界は相いれぬものであろうか。
これは自分の年来の疑問である」と述べています。そして「相いれるものである」と結論づけています。

科学を表わす代名詞は、理性、論理性、デジタル、客観、事実分析、仮説と証明、普遍性、予測性などであり、
芸術の代名詞は、感性、アナログ、主観、写実、理想などです。一見すると科学と芸術は相反するように見えます。

しかし、寺田寅彦は「重なる部分にも目を向けよ」といい、「そう簡単に区別出来るものではない。
科学は進歩するに従って人間の五官で感じ得る客観ではなく、その科学者の主観に近づく。
例えば、理論物理学の分野では最後は科学者の主観によることが多い。

一方、芸術家も次第にデッサンの写実から離れ、抽象画のように、概念の抽象化に近づくから、
科学と芸術を絶対的に区別することは間違いである。
量子論もピカソの絵も観察ではなく頭の中で考えた結果であることで共通している」と書いています。

寺田寅彦は、その他、科学者と芸術家に共通するものとして、あくなき創作欲、本能の満足、美の追求、観察力、
分析力、想像力、総合力、直感、偏狭心、熱情をあげています。

ノーベル賞受賞の小柴教授も「理論物理学は頭の中の主観的なヒラメキが仕事で、
我々の実験物理学はそれを実験で客観的に証明することが仕事なのです」と言われています。

2)「人事考課の緻密な設計は科学である」ように見える
 人事考課の人事専門誌の事例紹介やセミナーでは、数式や精緻な手法を駆使して、
たとえば、評語、段階評定の設計、相関関係、ウエイト付け、評価結果の正規分布化、相対評価と絶対評価
、偏差値による分析、部門による甘辛の是正の調整会議などで、
可視的な客観化(科学性)に多大なエネルギーと時間を費やします。

3)しかし、最終的には、非可視的な要素で「芸術的に」決められる
 「科学的なデーター」は尊重しつつも、数字に表わせない非可視的な人的価値、
数字に出ない貢献度、人格、将来性、可能性、長期的人材育成、事業戦略の優先順位などの
主観的判断で「総合評定」で決定されることが多いのです。よきにつけ悪しきにつけこれは「芸術的」というしかなく、
時には、役員の力関係や部門間の人的バランスなどで「天の声」でトップの直観で決まるのが現実ではないでしょうか。

4)人事も「芸術的」役割を持つ
 人事は社員を人件費としてではなく、社員のひとりひとりを人事の大切な顧客として個人の能力を最適、
最大に活かすことが人事の使命です。
有形無形の情報を集めた職場の人間関係、家族の問題など、人事考課の「科学的」処理業務では得られない、
アナログ的情報を集めてデーターや評定者の主観などの歪みを調整するのが人事の使命です。

人事考課とは、後ろ向きの査定だけではなく、
社員の可能性を引き出し本人と企業の業績向上に役立たせる前向きの仕組みでもあります。

例えば、上司との相性が悪いとか、人付き合いが苦手で一匹狼と評され評点では低い社員の方が、
実は、円満で評点の高いニコニコ社員より貢献度が大きい例がよくあります。

人事は、被評定者の見かけやショーマンシップや、評価者の評価点にまどわされず、
経営者の独断にもまどわされず、隠れた逸材を見抜き掘り起こす芸術的な鑑識力を持ちましょう。