太田隆次の人事講座

人間は理性と感性の二つの宇宙を持っている(カントの墓碑銘は語る) [人事の教養]

投稿日時:2015/07/03(金) 08:30rss


最近、大病院を対象にして医師、各種検査技師、看護師、医療事務担当者など医療スタッフの評価について、あるユニークな調査が発表されました。

 

それによりますと、医師以下優れた医療スタッフは、一見相反する「技術性」(理性)と「関係性」〈感性〉共に優れているということです。医師を筆頭に医療スタッフは、自分の職種について日進月歩に高度化する技術が求められ(技術性)、かつ周囲の医療スタッフや患者との良好な関係を保つことが求められる(関係性)ことは当然のことといえます。平たくいえば、すぐれた医療スタッフは、「熟練のスキル」(技術)と「人間性」(感性)を兼ね備えているということです。

 

理性と感性といえば、大哲学者カント(1724~1804)に登場して貰わねばなりません。

 

 カントは、「宇宙やこの世の森羅万象を支配しているものは何か」をライフワークにして何十年も考え続け、晩年に「純粋理性批判」など3冊の著作を書きました。「純粋理性批判」の巻末の有名な結論が、墓碑銘にも刻まれています。余程嬉しかったのか、原文はくどいですが、忠実に訳すと次のようになります。

 

 「繰り返し、絶え間なく熟考すればするほど、それだけ新たに高まりくる感嘆と畏敬の念をもって心を満たすものが二つある。我が上なる星の輝く空と我が内なる道徳律とである」

現代風に超訳すると、「私は嬉しくて嬉しくてならない。その一つは真理を究める理性を私たちが持っていることであり、もう一つは私たちの道徳を決める感性を持っていることである」

 

カントを喜ばせた理性と感性の違いを現代風に書くと次のようになります。


    担当 対象 技法 視点  効力  拘束性 性質  自由度

理性  左脳 技術 分析 客観的 規範的 義務的 画一性 低い自由度


感性  右脳 道徳 統合 主観的 利己的 権利的 多様性 高い自由度 

 

 

 カントの時代はニュートンなど科学者が輩出し、物理学、化学などの進歩で、産業革命が始まり、それまでは宗教、芸術など人間の関心は100%人に向かっていたのが、物質の構造解明と利用など人間の関心は人以外に向かうことになりました。カントは人に向かっているのは感性で、人以外に向かうのは理性で、人間はこの感性と理性を兼ね合わせ持つていると提唱したのです。

 

 人に向かう感性は道徳、統合的、主観的ですが、人以外に向かう理性は冷静な技術、分析、客観的です。ざっくばらんにいえば、感性は文系、理性は理系です。

 

 この時代にカントは、人以外に関心が高まり理性がもてはやされる時代になったのを憂えて、行き過ぎた理性崇拝を「純粋理性批判」という本を書いて批判したのです。

 

 人間は理性という宇宙と、感性という宇宙を持っているのだ、何と素晴らしいことではないかと「純粋理性批判」に文末の言葉とし、墓碑にも刻んだのです。