太田隆次の人事講座

第三のコミュニケーション-「影響力」が世の中や人事を動かしている [人事の教養]

投稿日時:2011/01/18(火) 09:12rss


 コミュニケーションとは、あるメッセージを相手に納得して貰うことです。その主な手段の第一は「話す」で、第二は「書く」とすると、「話さない」「書かない」第三のコミュニケーションとして、よくも悪くも、いわば無言の「圧力」で相手を納得させたり納得したりすることが世の中には多いのです。

例えば、
・  偉い人の前に出ると何も言われなくても、「位負けして」納得する気になります。
・  江戸城無血開城の交渉は、勝海舟も西郷隆盛も殆ど言葉を発しなくてもまとまりました。
・  車の優秀なセールスマンは、マニュアルにあるような、あれこれセールストークをしなくても、面と向かって相対するだけでお客に車を買う気にさせます。

こうした無言の「圧力」を、社会心理学者が研究して「影響力」(Influence)と名づけて研修など色々の分野で応用されています。
大きく分けて五つの種類があります。
 
1.地位、権力による影響力
 ひとことでいえば、相手の「地位と力」に負けて納得してしまうことです。
 ・地位、権限、権力 ― 政治的、組織的地位や権力による利益や罰の可能性に影響され納得する。
 ・恐怖、畏れ ― 拒否した場合の報復の恐怖感に影響されて、自分の安全確保のために納得する。
 ・利害関係 ― 契約など承諾あるいは拒否した場合の短期、長期の損得勘定に影響されて納得する。
 ・属人的要因 ― 年齢の違い、学歴の違い、身分の違い、性別などに負けて納得する。
 欧米では「Influence without Authority」(権力によらない影響力)という言葉があって権力で納得させることを戒めています。

2.個人的関係による影響力―日本では「派閥」が多い
 ひとことでいえば、「個人的つながり」「人脈」「派閥」に負けて納得することです。
 ・所属の一体感 ― 「同じ釜の飯を食った仲」「同期の桜」「派閥の力学」による意識の一体 感に影響されて納得する。
 ・共通基盤 ― 縁戚関係、同一の専門性、プロジェクトの共通体験など、人生経験の共通性に影響されて納得する。
 ・同一性 ― 価値観、信条、趣味、嗜好、スポーツ、生育歴、家族構成などの同一性ないし類似性に影響されて納得する。
 ・好意、親近感 ― 相手に対する友情、特別な人間的魅力、態度の真摯さなどに影響されて納得する。
 
3.信頼、信用度による影響力
 ひとことでいえば、「あれほどエライ人がいうのだから」と、社会的な信用度に負けて納得することです。
 ・高度な専門資格 ― 医師、教授、弁護士など社会的に高い専門資格に影響されて納得する。
 ・高度な専門性、技術 ― 高度の専門性、技術に影響されて納得する。
 ・社会的認知度 ― 社会的な有名度や認知度の高さに影響されて納得する。

4.社会的規範の影響力
 ひとことでいえば、「既に社会や組織では定着していることだ」「規範となっている」に負けて、納得することです。
  集団規範   ― 組織風土やある組織の規範では決まって当たり前になっていることに影響されて納得する。
  社会的慣行 ― 「既に社会的慣行である」「既成事実だる」と言われて納得する
  
5.情緒、感性の影響力
 ひとことでいえば、「感情に負けて」理屈抜きに相手のメッセージを納得することです。
  相互互恵、交換 ― 「お互いに利益になる」、「Win- Win」「ギブアンドテイク」に影響されて納得する。
  皆の総意だ ― 「皆がそう言っています」と言われて納得する。
 
このように「話せば分かる」「正論は通る」のキレイごとでいかないのが現実の世界です。正論ではない圧力の「影響力」で決まることが多いのは、メディアで面白おかしく報道されるように、政争や経営のゴタゴタや労使紛争でよく見聞する通りです。
 
「コミュニケーション」が表街道とすれば、「影響力」は裏街道です。成果を達成するコンピテンシーとしてメッセージの発信者としても受信者としても、「影響力」に習熟して自由自在に駆使して頂きたいものです。