太田隆次の人事講座

目標管理の歴史 [人事の教養]

投稿日時:2013/10/21(月) 09:00rss


目標管理制度の歴史をたどることで現時点の問題点が分かります。

1.淵源
 目標管理の淵源はどこにあるかは、欧米の研究者の間ではよく論じられているテーマです。
 たとえば、旧約聖書の、エジプトを出発して「約束の土地」を探すモーゼの「十戒の教え」(B.C、1200)や
 アリストテレス(B.C.384~322)が「成功するには目的意識を持て」といっていることが、目標管理の淵源であるといわています。

 
2.アメリカで制度として誕生(1950年代)
 普通、目標管理は、ドラッカーが創始したと思われていますが、広く提唱したのは事実ですが、
 ドラッカー自身が目標管理のアイディアを創始したのではありません。

 あるアメリカの人事管理の参考書を抄訳すると、
 「目標管理のアイデイアは、1950年にブーズ・アレン・ハミルトン会計事務所が、『マネージャの手紙』の制度を作り、
 各マネージャに、当年度の目標と実行計画を年初に提出させた制度が広まり、
 ドラッカーがその概念を1954年に『Management By Objectives and Self-control』と題して発表し、
 更にマクレガーが経営の哲学にまで発展させたものである」
 (Noe教授他、Human Resource Management,IRWIN 1994年刊)
 
3.日本への導入

 1)導入期(1964年―1990年)
  日本へは1964年に、産能大学が公開講座で紹介したのが最初で、おりからの不況で
  経営参加意識向上と人材育成にピッタリということで、翌年の1965年には早くも大企業の24%が導入しました。

 2)バブル不況への対応期(1990-2000)
  ところがバブル経済崩壊後は成果主義人事の目標達成度の測定ツールとして導入が急増(1990年~2000年)しました。
  その理由は
   ①年俸制の普及
   ②能力主義・業績成果主義の浸透
   ③裁量労働制の成果による評価の必要性
   ④職能資格制度の成果重視への修正など、
  企業側の評価基準のニーズにかなうものとして1960年代の経営の視点からの人材育成という大目的が忘れられ、
  個人の昇給ツールへと重宝され現在に至っています。

 現状の問題点を整理すると次のようになります。

 問題点1 経営の視点での経営参加と人材開発の目標管理が評価のツールに格下げ
  1960年代後半から日本に紹介された直後から早く導入した企業では、
  「組織と個人の統合」の哲学を基本に「経営目標への参画」「能力開発」「キャリア開発」「業務目標の設定」と
  自己管理による自己実現や人材開発をめざし、社員の真の活性化を軸に展開してきましたが、
  バブル崩壊後、新しく導入した企業の多くでは、性急な成果測定を目指して目標達成度のツールに限定し、
  成果達成の部分だけをノルマ化して数字で測定する、新しい日本的「目標管理」が広まりました。

 問題点2 目標の選び方と達成基準があいまいで、企業成果より個人成果にウエイト
  目標は、成果や業績よりも、半期単位の短期的で分りやすい低めの目標で、達成しやすい、数値化できる売上額など、
  目に見える結果に偏りがちになる傾向にあります。
  管理部門の定量化し難いものや定性的な目標は軽く見られたり、進捗管理や達成基準の設定や測定が、
  上司や部下の判断に委ねられ、全体として統一性や明確性を欠くことになりやすい。 

 3)反省期-プロセス重視と人材育成の原点回帰へ(2000年以降)
  誤用されている「目標管理」は、「達成すべき目標を管理する」、英語でいうと、
  「Management Of Objectives」というべきもので「目標を管理する」目標管理で,
  ドラッカーの説く「Management By Objectives」(目標による管理)のMBOから逸脱している。
  そういう目標管理は、MBOではなくてMOOである、と批判されています。
  目標の達成度測定だけを管理するMOOと、アメリカで発展したホンモノの目標管理MBOは全く違うのです。
 
 下図は、今回、説明した目標管理の沿革を、古代の淵源、アメリカでの発展、日本への導入を年代別に図解したものです。
 

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